食卓に置かれた文庫本と湯のみのイラスト

食べもののエッセイおすすめ3冊|台所の味、食べる人の声、本の中の食卓

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湯気の立つお椀や、急に食べたくなる菓子。何をおいしいと思うかを聞いていると、その人が暮らしてきた時間まで、少しずつ見えてくる。食べものの本には、そんな話の続きに耳を傾ける楽しみがある。

台所の道具や日々の味に目を向ける『買えない味』。食べる人の語りを楽しむ『残るは食欲』。作品に描かれた食卓から、次に読む本へ向かう『私的読食録』。今回は、この三冊を選んだ。

出版社の紹介と公開目次を手がかりに、それぞれの本へ入る道を案内する。今日の食事に近い話からでも、まだ知らない食卓からでもいい。いま聞いてみたい話に近い一冊を探してみよう。

台所の小さな工夫に目を向けたいなら『買えない味』

煮物は、時間を置くことで味を変える。番茶をいれる手もとには、いつもの器がある。平松洋子の『買えない味』が目を向けるのは、そうした家の中のおいしさだ。出版社の紹介に並ぶ味も、目次に見える箸置き、うつわ、調理スプーンも、日々の食事から遠くない。

器を選び、料理を盛り、箸を取る。食べるまでの何気ない動作にも、味わう余地があるのかもしれない。「何か珍しいものを食べたい」という日より、いつもの食卓をもう少しよく見たい日に、手が伸びる題材だ。

読み終えたら立派な料理を作ろう、と気負うこともない。明日の食事で、手持ちの道具を一つ眺めてみる。その程度の小さな変化なら、忙しい台所にも持ち帰れる。

平松洋子著/筑摩書房・ちくま文庫/240ページ。内容と書誌は筑摩書房の紹介で確認できます。

食べる人の声に親しみたいなら『残るは食欲』

豆腐、果物、カツサンド、ビール。阿川佐和子の『残るは食欲』は、目次に並ぶものの名前からして身近だ。雑誌『クロワッサン』の連載をまとめた本書には、家庭の食卓の記憶から、ひとりで料理して食べる日常までが収められている。

同じ料理の話でも、語る人が変われば、そこにまつわる出来事は違ってくる。食べものを通してその人の声に親しみたいときには、こういうエッセイがよい。長い物語を追う余力のない夜なら、気になる料理の項目を一つだけ開く読み方もある。

ひとり分のごはんは、済ませるべき用事になってしまうことがある。それでも、つい選ぶ惣菜や、好きで買い続けるパンの話なら、案外いくつも思い浮かぶのではないか。誰かの食欲をたどりながら、自分の食卓にあった話も拾ってみたい。

阿川佐和子著/新潮社・新潮文庫/224ページ。新潮社の紹介と目次から、気になる題材を探せます。

次に読む本まで見つけたいなら『私的読食録』

小説の筋は曖昧になっても、そこで食べられていたものは覚えている。そんな記憶があるなら、堀江敏幸と角田光代の『私的読食録』が気になるだろう。小説、随筆、日記に描かれた食から作品をたどる散文集で、公開目次には向田邦子『父の詫び状』、バーネット『小公女』、川上弘美『センセイの鞄』などが並ぶ。

食卓の場面を入口にすると、知っている本にも別の近づき方が生まれる。なぜその食べものが記憶に残ったのか。誰が、どこで食べていたのか。次に読む一冊を探しながら、以前読んだ物語にも思いを戻せる題材だ。

取り上げられた本を、全部読んでおく必要はない。見覚えのある書名からでも、食べものの名前に引かれた箇所からでも入れる。ただし、作品の内容に触れるため、初読の楽しみを残しておきたい本の項目は後回しにしておこう。気になる書名を書き留めれば、読書の予定が一つ増える。

堀江敏幸・角田光代著/新潮社・新潮文庫/352ページ。電子版も案内されています。新潮社の書誌ページで収録作品を確認できます。

いまの食卓に近い一冊から

台所の道具まで含めて味わう『買えない味』。食べる人の声を楽しむ『残るは食欲』。本の中の食卓へ向かう『私的読食録』。同じ食を読む本でも、目を向ける先はそれぞれ違う。

本記事の紙の本へのリンクは、本文で紹介した文庫版へ案内している。購入前に、書名・著者・文庫名と、紙かKindleかを確かめよう。『私的読食録』は両方のリンクを分けているので、読みたい形を選んでほしい。価格や在庫、販売者は、そのときの商品画面で確認を。

まずは目次で、好きなものの名前を探してみる。お茶がまだ温かいうちに、一篇。続きを読むかどうかは、それから決めても遅くない。

食卓から、次の本へ

台所の器や道具を眺める楽しみが気になったら、「大人も楽しめる図鑑おすすめ3冊」もどうぞ。草花、地形、暮らしの道具を通して、身近なものを見直す一冊を探せる。

本の中の食卓から、その土地の暮らしへも目を向けたくなったら、「物語ゆかりの場所を訪ねる小説5選」へ。町や文学館とのつながりを入口に、小説を選ぶ案内をまとめている。

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綴 紫乃

綴 紫乃

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