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山中で見つかった身元不明の男性遺体。その報道を知った少年が、十年前に失踪した自分の父親ではないかと警察を訪ねる。櫻田智也の『失われた貌』は、この申し出から現在の事件と過去の失踪を結びつけていく警察ミステリーだ。
同じ遺体について、警察は身元を調べ、少年は父親の行方を確かめようとする。公表されたこの出発点には、事件の解明と、一人の人間を知ることの重なりがある。結末には触れず、その設定から考えてみたい。
身元を確かめることが、十年前へつながる
まず区別したいのは、少年の申し出と、確かめられた事実だ。父親ではないかという言葉は捜査の入口であって、この時点では身元を示す答えにはなっていない。読む側がそのつながりを早く信じたくなるとしても、まだ分からないことは残っている。
もう一つ気にかかるのが、十年という隔たりである。遺体の身元が判明すれば、目の前の事件の不明点は一つ減る。しかし少年の側から見れば、それは父親が姿を消してからの時間に答えを求めることでもある。誰なのかという確認が、なぜ帰らなかったのかという別の問いにつながり得る。
ここに、この導入を警察の捜査と少年の両側から眺める理由がある。一つの情報が、調査を進める手がかりであると同時に、誰かの人生の受け止め方を変えるものになる。その可能性は、すでに最初の申し出に含まれている。
読み進めるときにも、分かった事実と、そこから自分が考えた事情を分けておきたい。少年と父親の関係を早く説明したくなる気持ちに立ち止まることが、この謎を追う最初の一歩になる。
『失われた貌』の基本情報
- 著者:櫻田智也
- 出版社:新潮社
- 単行本発売日:2025年8月20日
- ページ数:304ページ
- 単行本ISBN:9784103564119
ランキングでの評価
新潮社の公式案内によれば、『このミステリーがすごい!2026年版』国内編、『ミステリが読みたい!2026年版』国内篇、『週刊文春ミステリーベスト10 2025』国内部門でいずれも1位。本屋大賞の公式結果では、2026年の9位に入った。
購入前に確かめたいこと
人の死と長期の失踪を扱う。単行本・電子書籍の案内は、出版社の作品ページで確認できる。
参考情報
書誌・作品情報の確認日:2026年10月7日。以下の書誌・公式案内と公開あらすじを参照。本文の考察は物語の出発点から導いた見方であり、結末や伏線の効果を評価する読了レビューではありません。