
子どもの頃に出会った一冊は、大人になってからも心の奥に残ることがあります。
内容を細かく覚えていなくても、ページをめくったときの空気や、誰かに読んでもらった声、物語の中に入っていくときの静かな高揚だけは、不思議と消えません。
そんな「子どもと本の出会い」を、長い時間をかけて支えてきた場所があります。
それが、公益財団法人 東京子ども図書館です。
東京子ども図書館は、子どもの本と読書を専門とする私立の図書館です。
都内4カ所ではじまった家庭文庫を母体として1974年に設立され、2010年には公益財団法人となりました。
本を貸し出すだけの場所ではありません。
子どもたちが本と出会う場であり、子どもの本に関わる大人を支える場であり、読書文化を次の世代へ手渡していくための場所でもあります。
この記事では、東京子ども図書館の歴史や活動、子どもたちに本を届ける取り組みについて紹介します。
東京子ども図書館とは
東京子ども図書館は、東京都中野区江原町にある、子どもの本と読書を専門とする私立図書館です。
公式サイトによると、東京子ども図書館は、1950年代から60年代にかけて都内4カ所ではじめられた家庭文庫を母体として、1974年に設立されました。
その母体となったのは、石井桃子の「かつら文庫」、土屋滋子のふたつの土屋児童文庫、松岡享子の松の実文庫です。
家庭文庫とは、個人が自宅や蔵書を開放し、子どもたちに本を貸し出したり、お話を届けたりする小さな読書の場です。
つまり東京子ども図書館の出発点は、大きな制度や立派な建物ではなく、子どもたちに本の楽しさを届けたいという、個人の静かな願いでした。
この成り立ちに、私はとても惹かれます。
本を届ける活動は、最初から大きなものでなくてもいい。
一冊を手渡すこと。
ひとつのお話を語ること。
子どもが安心して本を開ける場所をつくること。
そうした小さな営みが積み重なって、やがて多くの人を支える文化になっていくのだと思います。
子どもと本をつなぐための活動
東京子ども図書館は、子どもたちへの直接的なサービスだけでなく、子どもと本の世界で働く大人のための活動も行っています。
具体的には、資料室の運営、出版、講演・講座の開催、人材育成などです。
子どもの読書環境は、子どもだけでは作れません。
そこには、本を選ぶ人がいます。
読み聞かせる人がいます。
図書館や学校、家庭で、そっと本を手渡す人がいます。
東京子ども図書館は、子どもたちに直接本を届けるだけではなく、その周りにいる大人たちも支えています。
ここが、この図書館の大きな特徴だと感じます。
子どもが本に出会う瞬間の裏側には、たくさんの大人のまなざしがあります。
本は、ことばと想像力を育てる
東京子ども図書館の活動理念には、ことばと想像力を大切にする姿勢がはっきりと表れています。
公式サイトでは、子どもたちが深く感じ、しっかり考え、自分を表現し、自由に想像力を働かせる世界を持つためには、幼い日にことばの力と想像力を身につけることが大切だとされています。
そして、本はそのふたつの力を育てる重要な手段だとされています。
この考え方は、読書を単なる勉強や習慣としてではなく、子どもが自分の内側に世界を持つためのものとして捉えているように感じます。
本を読むことは、知識を得ることだけではありません。
自分とは違う誰かの気持ちに触れること。
まだ行ったことのない場所を想像すること。
言葉にならなかった感情に、物語の中で出会うこと。
そうした体験が、子どもの心の中に少しずつ根を張っていきます。
子どもの頃に読んだ本は、すぐに何かの役に立つわけではないかもしれません。
けれど、何年も経ってからふとした瞬間に、その一冊が心の中で小さな灯りになることがあります。
「お話」が読書への入口になる
東京子ども図書館では、設立以来「お話」に力を入れています。
ここでいう「お話」とは、昔話などの物語を語り手が覚え、本を見ないで語るものです。ストーリーテリングとも呼ばれます。
東京子ども図書館では、お話を語って聞かせることが、子どもたちを楽しく読書へ導く有効な手だてであると考えています。
これは、とても自然な読書の入口だと思います。
まだ文字を読むのが難しい子どもでも、声で語られる物語なら受け取ることができます。
語り手の声。
部屋の空気。
耳から入ってくる物語。
それらが重なって、子どもの中に物語の景色が生まれていきます。
最初は「読む」よりも「聞く」から始まる。
その体験が、やがて「自分でも本を開いてみたい」という気持ちにつながっていくのかもしれません。
子どもの本に関わる大人のための学びもある
東京子ども図書館では、お話の講習会も行われています。
講習会では、どのようなお話を選ぶか、どのように語るか、語り手としてどのような心構えを持つかなどを学ぶことができます。
対象となるのは、児童図書館員、学校図書館員、教師、保育者、児童館職員、文庫関係者、お話ボランティア、学生など、子どもにお話をする必要のある人たちです。
子どもに本を届けるためには、ただ本があればいいわけではありません。
その本をどう選ぶか。
どのタイミングで手渡すか。
どんな声で届けるか。
子どもの反応をどう受け止めるか。
そこには、経験と学びが必要です。
東京子ども図書館は、子どもと本のあいだに立つ大人たちを育てる場所でもあります。
館内には児童室・資料室・おはなしのへやがある
東京子ども図書館の館内には、児童室、資料室、おはなしのへやなどがあります。
児童室は、文庫活動から引き継いだ、ひとりひとりへのきめ細やかなサービスを心がけている場所です。
資料室は、子どもの本と読書について調べものをするための場所です。子どもの本に関心のある大人にとっても、貴重な学びの場になります。
おはなしのへやは、子どもたちがお話を聞くための部屋です。
本棚があるだけではなく、お話が語られ、人が集まり、子どもと本をめぐる時間が育っていく。
東京子ども図書館は、単に本を保管する場所ではなく、子どもと本の文化を育てる場所なのだと思います。
「子どもたちに本を贈ろうプロジェクト」
東京子ども図書館では、「子どもたちに本を贈ろうプロジェクト」も行われています。
このプロジェクトは、募金をもとに、学校図書館や幼稚園などへ「愛蔵版おはなしのろうそく」や『うれしいさんかなしいさん』、ブックリストなどを贈る取り組みです。
目的は、子どもたちがお話を楽しんだり、本に親しんだりする環境を整えることです。
贈る対象には、小学校、中学校、幼稚園、保育園、学童保育所、児童館、児童養護施設、小児病棟などの公的施設が含まれています。
また、特別な災害のあった地域を最優先とする方針も示されています。
本を贈ることは、ただ物を送ることではありません。
その先にいる子どもたちへ、「物語に出会える場所を少しでも増やしたい」という願いを届けることでもあります。
一冊の本が、すぐに人生を変えるとは限りません。
けれど、ある日ふと手に取った物語が、その子の世界の見え方を少し変えることはあります。
本には、そういう静かな力があります。
私たちにもできる支援がある
東京子ども図書館は、私立の図書館です。
公式サイトでは、東京子ども図書館は図書館法により、国や地方公共団体から補助金を受けることのできない私立の図書館であると説明されています。
そのため、活動を続けるためには、事業収入だけでなく、寄付や賛助会員などの支援も大切になります。
支援方法としては、一般寄付、指定寄付、賛助会員などがあります。
指定寄付には、「本よんでうれしいさん基金」や「子どもたちに本を贈ろう基金」などがあります。
大きなことをしなくても、本に関わる活動を応援する方法はあります。
活動を知ること。
誰かに伝えること。
本を必要としている場所に思いを向けること。
子どもに本を読んであげること。
図書館や文庫の存在を大切にすること。
そのどれもが、読書の灯りを次の世代へ渡す小さな手助けになります。
本ブログの広告収入の一部を、本として寄贈する取り組みを行っています。
私自身も、本を紹介するだけでなく、本と出会う機会そのものを少しずつ広げていきたいと考えています。
本が好きだからこそ、本を読む人だけでなく、本にまだ出会っていない人のことも考えたい。
東京子ども図書館の活動は、そんな思いに静かに火をともしてくれる存在です。
東京子ども図書館を訪れるには
東京子ども図書館は、東京都中野区江原町にあります。
所在地は、東京都中野区江原町1-19-10です。
開館時間は、児童室が火・水・金の13:00〜17:00、土曜の10:30〜17:00。資料室は火・水・金・土の10:30〜17:00です。
ただし、臨時休館などもあるため、訪問前には必ず公式サイトの開館日カレンダーを確認するのが安心です。
アクセスは、都営地下鉄大江戸線「新江古田駅」A1出口から徒歩10分。西武池袋線「東長崎駅」南口からは徒歩15分です。
また、見学については、初めて訪れる方に児童室や資料室、おはなしのへやなどを案内しています。
東京子ども図書館の見学料はかかりませんが、現在は事前予約制で受け付けているため、希望する場合は電話での申し込みが必要です。
なお、見学時の写真撮影やインターネットへの掲載については、必ず担当者へ相談するよう案内されています。
ブログやSNSで紹介したい場合も、事前に確認しておくと安心です。
本を好きになる入口は、いつも誰かが開いてくれている
子どもが本を好きになる瞬間は、目に見えにくいものです。
親に読んでもらった絵本。
図書館で偶然見つけた一冊。
先生が紹介してくれた物語。
誰かの声で聞いた昔話。
そうした小さな出会いが積み重なって、やがて読書はその子の中に根を張っていきます。
東京子ども図書館は、その入口を長い時間をかけて守り続けてきた場所です。
本は、すぐに役立つ道具ではないかもしれません。
でも、心が迷子になったときに戻れる場所になったり、まだ見ぬ世界へ出ていくための地図になったりします。
子どものそばに本があること。
その本を手渡す大人がいること。
物語を楽しむ時間が守られていること。
それは、思っている以上に大切なことなのだと思います。
東京子ども図書館の活動を知ることは、子どもたちの未来に本を残していくことを考える、ひとつのきっかけになります。
本が好きな方。
子どもの読書支援に関心がある方。
そして、一冊の本が人を支えることがあると感じている方。
東京子ども図書館は、ぜひ知っておきたい場所です。
参考リンク
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