
地域で読み聞かせ活動を続ける方にお話を伺いました
本は、ひとりで読むもの。
そう思っていました。
けれど、誰かの声で届けられる本には、また少し違う力があります。
朝の教室で聞いた一冊。
子ども食堂で出会った物語。
その場では何気なく過ぎていった言葉が、何年もあとになって、ふと思い出されることがあるかもしれません。
今回は、山形県で小中学校や子ども食堂で絵本の読み聞かせを続けている方に、活動への思いや、本を届けることについてお話を伺いました。
当ブログでは、広告収入の一部を本として寄贈する取り組みを行っています。
その活動を考える中で、実際に地域で本を届けている方の言葉を聞いてみたいと思い、今回ご協力いただきました。
※この記事では、ご本人のプライバシーに配慮し、市町村名・お名前・活動名・学校名・施設名・ご本人の創作作品名・外部リンクなど、個人の特定につながる可能性がある情報は伏せた形で掲載しています。
山形県の小中学校や子ども食堂で続ける読み聞かせ
今回お話を伺った方は、山形県内の小中学校で定期的に読み聞かせを行っています。
また、不定期で子ども食堂でも読み聞かせをしているそうです。
小学校、中学校で毎月読み聞かせをしています。
それと不定期ですが子ども食堂でも行っています。
学校という場所だけではなく、地域の中で子どもたちが集まる場所にも本を届けている。
その活動は、ただ本を読む時間を作るだけではありません。
子どもたちと地域。
学校と大人。
本と、まだその本を知らない誰か。
そうしたものを、少しずつ結び直しているように感じました。
きっかけは、学校と地域をつなぐ方からの声かけ
活動を始めるきっかけは、学校と地域をつなぐ役割を担う方からの声かけだったそうです。
学校と地域をつなぐコーディネーターの役割を担っている方から誘われました。
読書離れが語られる時代にあって、子どもたちに本の魅力を伝えることに興味があり引き受けました。
「読書離れ」という言葉は、よく耳にします。
けれど、子どもたちが本を嫌いになったというより、ただ本と出会うきっかけが少なくなっているだけなのかもしれません。
自分で本棚の前に立つ前に、誰かが一冊を開いてくれる。
「こんな本があるよ」と、声で届けてくれる。
それだけで、本との距離は少し近くなります。
読み聞かせは、読書の入口にそっと灯りをともすような活動なのだと思います。
「一つでも心に残る言葉を届けられたら」
活動を続ける中で大切にしていることについて、こんな言葉をいただきました。
本を通して人と出会い、一つでも心に残る言葉を届けられたらと願っています。
この言葉が、今回のお話の中心にあります。
読み聞かせは、ただ物語を声に出して読むだけではありません。
読む人がいて、聞く人がいる。
同じ時間の中で、同じ本を共有する。
その場にいる人たちは、同じ言葉を受け取ります。
けれど、心に残る場所は一人ひとり違うはずです。
ある子には、登場人物の言葉が残るかもしれない。
ある子には、物語の終わり方が残るかもしれない。
また別の子には、読んでくれた人の声や、その時間そのものが残るかもしれない。
本を届けるというのは、言葉を手渡すことでもあるのだと感じます。
子どもたちから届いた、感想と感謝の冊子
活動の中で印象に残っている出来事を伺うと、子どもたちから届いた冊子の話をしてくださいました。
1年間読み聞かせをした後で、児童・生徒から、感想や感謝の気持ちが込められた冊子をいただいたのはとても嬉しかったですね。
また、読み聞かせをした作品を、リスト化してみんなで共有できるように資料にしています。
読み聞かせは、その場ですぐに大きな反応が返ってくるとは限りません。
静かに聞いている子もいる。
楽しそうに反応する子もいる。
何を感じているのか、表情だけでは分からないこともあると思います。
それでも、言葉は届いている。
あとから冊子という形で返ってきた感想や感謝の気持ちは、そのことを教えてくれるものだったのではないでしょうか。
また、読み聞かせをした作品をリスト化し、みんなで共有できる資料にしているというお話も印象的でした。
一度読んで終わりではなく、読んだ本を記録に残す。
それは、次の読書につながる小さな道しるべになります。
こうした丁寧な積み重ねが、子どもたちの中に「本と出会った記憶」を残していくのだと思います。
小学生には、季節や朝の時間に合う絵本を
読み聞かせで選ぶ本は、子どもたちの年齢や、その時期に合わせて考えているそうです。
小学生には、季節行事に合わせたものや、朝の時間に楽しめる作品を選ぶことが多いといいます。
小学生には、季節行事に合わせたものや、朝なので楽しめる作品などを選んでいます。
例えば、『おせち』『十二支のおはなし』『いちにちおこめ』『ワニぼうのこいのぼり』など。
お正月。
干支。
毎日のごはん。
こいのぼり。
季節や暮らしに近い絵本は、子どもたちの日々と本の世界を自然につないでくれます。
「本の中の出来事」と「自分たちの暮らし」が、ふと同じ場所に並ぶ。
その近さがあるからこそ、子どもたちも物語の入口に立ちやすいのだと思います。
また、高学年には、少し考えてもらえるような作品も選ばれています。
高学年には、少し考えてもらえるような作品も選んでいます。
例えば、『100万回生きたねこ』『野ばら』『たった一人の戦い』など。
楽しいだけではなく、読み終えたあとに少し黙って考えたくなる本。
そうした本を届けることは、子どもたちの感じる力や考える力を信じることでもあるように感じます。
中学生には、社会の動きとつながる本を
中学生に向けては、社会の動きに合わせて本を選ぶことも多いそうです。
中学生には、社会の動きなどに合わせて選ぶことも多いですね。
たとえば、平和について考えてもらいたい時には、ジョン・レノンの『イマジン』を題材にした絵本を紹介。
宇宙から見た地球や人類の争いの歴史を描いた『そのころ地球では』。
世界の今を考えてほしい時には、『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』。
米不足が話題になった時には、インドの民話『1つぶのおこめ』。
デフリンピックが話題になった時には、『耳の聞こえないメジャーリーガー』。
平和について考えてもらいたい時、世界の今を考えてほしい時、社会の出来事に合わせて本を選ぶことがあります。
本は、教科書とは違う角度から世界を見せてくれます。
ニュースで聞いた出来事。
どこか遠くの国の話。
まだ自分には関係がないように思えること。
それらが、一冊の本を通すことで、少しだけ自分の近くにやってくる。
読み聞かせの時間は、物語を聞く時間であると同時に、世界について考える時間にもなっているのだと思います。
身近な出来事と本がつながる瞬間
子どもたちにとって身近な出来事をきっかけに、本を選ぶこともあるそうです。
大リーグの大谷翔平選手が全国の小学校にグラブを贈ってくださったので、大谷選手物語の絵本『野球しようぜ』なども興味深く聞いてくれました。
子どもたちにとって身近な出来事と本がつながった時、物語は急に近くなります。
「あのニュースのことだ」
「自分たちにも関係があるかもしれない」
そう感じられる一冊は、子どもたちにとって特別な入口になるのかもしれません。
選書には、ただ良い本を選ぶだけではない難しさがあります。
その時、その場所、その子どもたちに合う本を考える。
そこには、読む相手のことを思う時間があります。
進路を控えた子どもたちへ届けた言葉
特に「これは届けたい」と感じた本として、進路を控えた中学生に向けて読んだ一冊の話もしてくださいました。
進路を控えた中学3年生に、直木賞作家の今村翔吾さんが中学生に向けて書いた新書『運命を変えるチャンスはなぜか突然やって来る』を最後の回で読みました。
その本には、
まずはやってみることが大切。
遠回りは決して無駄にならない。
運をつかむには、縁を大切にする。
そうしたメッセージが込められていたそうです。
進路を前にした時期は、子どもたちにとって大きな節目です。
期待もある。
不安もある。
まだ言葉にできない迷いもあると思います。
そんな時期に届けられた一冊は、すぐに答えをくれるものではないかもしれません。
でも、何かに迷った時、ふと戻ってこられる言葉になるかもしれない。
本の言葉は、読んだ瞬間だけで終わるものではありません。
時間がたってから、必要な時にそっと思い出されることがあります。
読み聞かせは、大人にとっても喜びになる
活動を続ける中で感じたことについて、こんな言葉をいただきました。
読み聞かせとは、単に物語を読み上げるだけではなく、生徒らに向けて言葉を紡ぐことで関わりを持てることが、私たち大人にとっても大きな喜びなのだと気づかされました。
この言葉が、とても印象に残りました。
読み聞かせというと、子どもたちに本を届ける活動だと思われることが多いかもしれません。
でも実際には、読む側の大人もまた、子どもたちとの関わりの中で何かを受け取っているのだと思います。
子どもたちの表情。
あとから届く感想。
一緒に物語を聞いた時間。
本を間に置くことで、普段ならなかなか交わらない世代が、同じ言葉を共有することができます。
読み聞かせは、子どもたちのためだけのものではありません。
大人にとっても、人と関わる喜びを思い出させてくれる活動なのだと思います。
読むこと、届けること、書くこと
今回お話を伺った方は、読み聞かせだけでなく、書く活動にも取り組んでいます。
現在、地域の媒体で本にまつわる文章などを書かせてもらっています。
活動を知ってもらい、そうした場をもっと作れればと願っています。
また、地域に受け継がれてきた文化を題材にした創作にも挑戦されているそうです。
ただ記録として残すだけではなく、物語として手渡す。
そうすることで、地域の記憶は子どもたちの中にやわらかく残っていきます。
読むこと。
届けること。
書くこと。
物語を作ること。
それぞれは別々の活動に見えて、根っこではつながっています。
どれも、誰かの心に言葉を残すための営みです。
山形県から、全国の仲間へ
今回お話を伺って、強く感じたことがあります。
本に関わる活動は、特別な人だけができるものではないのかもしれない、ということです。
もちろん、学校や地域で読み聞かせを続けるには、準備も責任もあります。
簡単なことばかりではないと思います。
それでも、最初の一歩は案外小さなものなのかもしれません。
地域の活動に関心を持ってみる。
図書館や学校のボランティアを調べてみる。
子どもに一冊読んでみる。
誰かにおすすめの本を手渡してみる。
読み終えた本の感想を、短く書いてみる。
それだけでも、本と人をつなぐ小さな活動になります。
山形県の一つの地域で続けられている読み聞かせの活動は、決してその場所だけで完結するものではないのだと思います。
同じように本を届けたい人。
子どもたちと言葉を分かち合いたい人。
地域の中で何かを始めてみたい人。
そうした人たちと、場所を越えてつながっていくきっかけにもなっていくはずです。
本を届けるというのは、立派な肩書きがないとできないことではありません。
自分が大切にしている一冊を、誰かにそっと差し出すこと。
その一冊が、相手の中で思いがけず長く残ること。
そこから始まるものも、きっとあります。
本を通して、未来へ言葉を手渡していく
「本を通して人と出会い、一つでも心に残る言葉を届けられたら」
その思いは、読み聞かせの活動の中で、静かに形になっています。
学校と地域をつなぐ。
子どもたちと本をつなぐ。
大人と子どもを、同じ物語の時間でつなぐ。
その一つひとつは、派手な活動ではないかもしれません。
けれど、誰かに読んでもらった一冊が、その子の中に残ることがあります。
何気なく聞いた一文が、未来のどこかで背中を押してくれることがあります。
本との出会いは、いつも本屋や図書館だけで起こるわけではありません。
教室の朝。
地域の集まり。
誰かの声。
誰かの思い。
そんな場所から始まる読書もあります。
山形県で続けられているこの読み聞かせの活動は、本を通して未来へ言葉を手渡していく活動なのだと思います。
そしてこの記事を読んだ誰かが、少しだけでも「自分にも何かできるかもしれない」と感じてくれたら。
その気持ちもまた、次の誰かへ本を届ける小さな一歩になるはずです。