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映像を見終えても、ある人物の表情が残っている。あのとき何を考えていたのだろう。その人の言葉や、そこへ至る時間が気になったら、原作小説を開いてみたい。
映画やドラマになった日本のミステリーとクライムサスペンスから、六冊を選んだ。人を信じる理由、言葉の駆け引き、事件の向こうにある人生。いま気になる問いを手がかりに、次に読む一冊を探してみよう。
ここでは結末に触れず、各作品の入口と、探すときの目印になる著者・文庫名を紹介する。映像で知った人物を文章からたどり直しても、まだ知らない物語を本から始めてもいい。
いま読みたい問いから選ぶ
- 人を信じる理由が気になるなら『正体』『六人の嘘つきな大学生』
- 言葉や取引の駆け引きを追うなら『爆弾』『地面師たち』
- 事件の向こうにある人生へ目を向けるなら『罪の声』
- 語る人によって変わる見え方を確かめるなら『告白』
いずれも犯罪や死を扱う。題材の重さが気になる日は、出版社の紹介や試し読みを確かめてから選んでほしい。
『正体』染井為人 その人を、何で判断するか
死刑判決を受けた少年が脱獄し、工事現場や旅館などに身を潜める。行く先々で人と出会い、暮らしに紛れながら、逃亡は続く。なぜ逃げるのか。どこへ向かおうとしているのか。その問いを抱えて読む小説だ。
誰かを知るとき、肩書や評判と、目の前で見た姿のどちらを信じるだろう。逃亡の成り行きを追いながら、人を見る自分の目も気になってくる設定である。横浜流星主演、藤井道人監督の映画の原作。映画を見たあとなら、小説がどの場所や人物に時間をかけているかを比べる読み方もできる。
染井為人『正体』(光文社文庫・紙の原作小説)をAmazonで見る
『爆弾』呉勝浩 次の一言を待つ怖さ
警察に連行された男、スズキタゴサクが、爆発を予告する。その言葉をどこまで受け止め、何を手がかりに動くのか。取り調べのやり取りが、外で迫る危機と結びついていく。
相手が話せば、情報が増える。けれど、分かったことが増えるとは限らない。会話の意図を探りながら読むのが好きなら、この設定は気になるはずだ。前の発言へ戻り、自分ならどの言葉を疑うか考えてみたい。山田裕貴、佐藤二朗らが出演する、永井聡監督の映画の原作。穏やかな話より、切迫した駆け引きに向き合いたい日の候補になる。
呉勝浩『爆弾』(講談社文庫・紙の原作小説)をAmazonで見る
『地面師たち』新庄耕 取引の陰で、思惑が動く
土地の所有者になりすまし、金をだまし取る「地面師」。大物詐欺師ハリソン山中のもとで不動産詐欺に関わる拓海と、彼らを追う刑事の動きを描く。綾野剛、豊川悦司が出演するNetflixシリーズの原作だ。
一つの取引に、いくつもの役割と利害が集まる。誰が何を欲しがり、誰の判断を動かそうとしているのか。犯罪の計画だけでなく、それに関わる人々の思惑を追いたいときに手に取りたい。役割を短くメモしながら読めば、人物のつながりも整理しやすい。書店で探す際は、書名と著者名「新庄耕」を合わせて確かめよう。
新庄耕『地面師たち』(集英社文庫・紙の原作小説)をAmazonで見る
『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成 隣にいた人が、遠くなる
企業の最終選考に残った六人の大学生。それまで協力してきた彼らに、一人の内定者を決める課題が突きつけられる。さらに、選考の場には個人を告発する封筒が現れる。
一緒に準備してきた相手について、自分は何を知っているのだろう。限られた時間で人を評価する就職試験が、そのまま疑いの舞台になる。浜辺美波、赤楚衛二らが出演する映画の原作だ。身近な場面から謎へ入りたい人に向く設定で、「この人はこういう人だ」と感じた理由を覚えておくと、人の見え方を振り返る手がかりにもなる。
浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(角川文庫・紙の原作小説)をAmazonで見る
『罪の声』塩田武士 古い声が、いまの暮らしへ届く
京都でテーラーを営む曽根俊也は、古いカセットテープに幼い自分の声を見つける。それは、かつて脅迫事件に使われた声だった。一方、新聞記者の阿久津英士も、その事件を追い始める。
記録に残った声と、それを知らずに続いてきた人生。遠い過去だと思っていた事件が、現在の暮らしに結びつく導入に引かれる。小栗旬と星野源が共演した映画の原作。事件の経過と人の時間をじっくり追いたい日に、読む時間を取って向き合いたい。実在の未解決事件をモチーフにした小説であり、現実の事件の解決記録とは区別して読もう。
塩田武士『罪の声』(講談社文庫・紙の原作小説)をAmazonで見る
『告白』湊かなえ 語り手の言葉を、どこまで受け取るか
娘を学校で亡くした女性教師が、教室で語り始める。そこから語り手が移り、事件に関わる人々の言葉が重なっていく。松たか子主演、中島哲也監督の映画の原作である。
同じ出来事について話していても、立場が違えば見えているものも、語りたいことも違う。誰が、何を、どんな順番で口にするのか。人物の言い分に目を向けたい人には、その語りの構成が入口になる。映像で知っている物語でも、文章の中で声が切り替わるところに立ち止まれるだろう。子どもの死を扱うため、題材の重さを踏まえて選んでほしい。
湊かなえ『告白』(双葉文庫・紙の原作小説)をAmazonで見る
知っている物語を、別の速度で読む
原作からでも、映像からでもいい。先を知らずに読みたいなら本を先に開き、映像の人物が気になったなら、その人の言葉を小説の中で探してみる。急がず戻りたい箇所へ戻れるのは、本で物語をたどる楽しみの一つだ。
気になる一冊が見つかったら、書名と著者名を一緒に確かめよう。本記事のAmazonリンクは、各作品で紹介した紙の文庫版の原作小説へ案内している。商品画面でも文庫名と形式を見て、同じ題名のコミックや関連本と取り違えていないか確認したい。
試し読みがあれば、文章の調子と今の気分が合うかを見てからでもいい。価格や在庫、販売者は購入時の表示で確認を。映像を見終えたあとに残った問いを、次の一冊へ持っていこう。
次の一冊を、別の入口から探すなら
読む時間に合うミステリーを探したいなら、「Kindleで読みたいミステリー4選」へ。一話ずつ読める短編集と、まとまった時間に向き合いたい長編を紹介している。
物語の舞台や作者ゆかりの土地が気になったら、「物語ゆかりの場所を訪ねる小説5選」もどうぞ。本の中の町、文学館、映画のロケ施設とのつながりを確かめながら、次の一冊を探せる。