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傷んだ本を直している横で、作業が進んでから役立つ助言が出てくる。私なら、もう少し早く教えてほしかった、と言いたくなりそうです。
米澤穂信の『本と鍵の季節』で、私がまず好きになるのは、そんな図書当番の時間です。高校二年の堀川次郎と松倉詩門。謎を解く二人になる前に、同じカウンターの内側で、手を動かしたり軽口を交わしたりしている。
全六編のミステリーですが、事件が持ち込まれるまでの時間にも、もう少しいたくなります。
補修は堀川、字を書くのは松倉
堀川と松倉は、返却された傷んだ本を直しながら、冗談を交わしています。松倉は手先の不器用さを理由に補修を堀川に任せるのに、作業が進んでから役立つ知識を出してきます。
補修が済むと、堀川は字のうまい松倉に背ラベルを任せます。松倉が日本の小説を示す「913」を書き、堀川がフィルムで留めます。補修は堀川、字を書くところは松倉と、得意なことが交互に役立つ。
私は、この小さな分担がいいなと思います。どちらかが一人で片づけるのではなく、相手に任せるところがある。口では少し雑に扱っているようでも、手元では一冊を一緒に直している。そのやり取りに、二人で当番をする時間の居心地のよさを感じます。
よく話すけれど、聞かずにおくこともある
名前の話では松倉の言い分を何度も聞いている堀川が、父親について抱いた推測は本人に確かめようとしません。言葉を交わす楽しさと、聞かずにおくことが並んでいます。
気安く言い返せることと、相手のことを何でも知っていることは違う。私は、その踏み込みきらない距離も気になります。よく話す二人だからこそ、口にしないことにも目が向くのです。
堀川と松倉を、仲のいい図書委員の二人、とまとめるだけでは足りない気がします。軽口を聞いていると楽しいのに、それだけでは見えないものも残る。その近さと遠さが、会話の続きを聞いていたくなる理由です。
その二人に、金庫の依頼が持ち込まれる
ある日、引退した先輩が二人を訪ねてきます。依頼は、亡くなった祖父が残した金庫の番号を探ってほしいというものでした。
なぜ、専門家ではなく高校生の二人なのか。金庫の番号を探る依頼なのに、先輩の話し方や二人の反応にも引っかかるものがあります。
さっきまで一冊の本を直していた二人が、今度は誰かの頼み事を聞く。堀川と松倉なら、どこに引っかかり、どう言葉を返すのか。番号の手がかりと同じくらい、私はそこにも関心が向きます。
謎を解けるかだけでなく、この二人が次に何を言い合うのか。私にとっては、それも本を開く楽しみです。
「図書室の話だから安心」とは言い切れない
本作には金庫の謎だけでなく、試験問題の盗難や、亡くなった先輩と本に関わる出来事も登場します。人の死に触れる内容を避けたいときには、別の一冊を選ぶほうが安心です。
明るいやり取りの中にも影がある。そのほろ苦さも、本作の持ち味です。図書室での軽口を楽しむだけでは終わらず、二人が関わる人の事情にも気持ちが向きます。
続編は『栞と噓の季節』
本作は〈図書委員〉シリーズの第一作で、続編は長編の『栞と噓の季節』です。二人の物語を続けて読みたくなったら、本作のあとに進めます。続編の詳しいあらすじは、まずこの一冊を読み終えてから開くのがおすすめです。集英社の続編書誌
『本と鍵の季節』を手元に
米澤穂信 著/集英社文庫
2021年6月18日発売・360ページ
ISBN:978-4-08-744256-4
下の購入リンクは、紙の集英社文庫版です。
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二人の会話を、ゲームでも。Steamで第1章「913」を体験
小説の世界を、声やイラストでも味わってみたい方へ。集英社ゲームズは2026年10月20日、ゲーム版『本と鍵の季節』のSteam体験版配信を発表しました。第1章「913」をまるごとプレイでき、先輩が持ち込む金庫の謎から、二人の物語に触れられます。
体験版のセーブデータは製品版へ引き継げません。製品版はNintendo Switch/Steam向けに今冬発売予定で、価格は未定です。米澤穂信さんの書き下ろし「ユーズド奇譚」はゲーム版に収録予定のエピソードで、この記事で案内する既存の文庫版に加わった収録作ではありません。
ゲーム情報確認:2026年10月23日。出典:集英社ゲームズの体験版配信発表/ゲーム版公式サイト。配信内容・動作環境は公式の最新表示をご確認ください。
参照した情報
作品の紹介は、集英社の書誌・内容紹介、公式特設ページ、公開試し読みの冒頭部分を参照しています。結末や謎の解答には触れていません。公開試し読みは「913」の依頼の導入までで、一篇の全文ではありません。会話についての説明はこの公開部分の範囲、読み方の提案は綴ものの編集判断です。
- 集英社『本と鍵の季節』文庫版書誌・内容紹介
- 集英社『本と鍵の季節』公式特設ページ(六編構成・作品設定)
- 集英社「913」公開試し読み(冒頭の会話と依頼の導入)
会話場面の再確認:2026年10月26日。文庫書誌は2026年10月23日の確認記録を引き継いでいます。
アイキャッチはAIで制作したイメージです。実際の書影や作品の場面ではありません。
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