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美しい秋なのに、なぜか気持ちが焦る。星野道夫の『旅をする木』で私が惹かれるのは、自然の美しさと一緒に、そんな落ち着かなさも書かれていることです。
アラスカの自然や動物、人々の営みを写真と文章で記録した写真家のエッセイ集。遠い土地を見つめる文章なのに、季節を見送る人の気持ちには、近くで耳を傾けたくなります。
初雪が来る前の、落ち着かなさ
「北国の秋」では、植物が色づき、動物たちが冬へ備える、短いアラスカの秋が描かれます。その美しさのなかに、著者は気持ちが焦る感覚も見ています。けれど、初雪が降ればかえって落ち着くという。
私は、この初雪の前と後の違いで立ち止まります。冬が来るのを待っているあいだのほうが、落ち着かない。季節が変わることだけでなく、変わると分かっている時間も、人の気持ちを動かすのだと感じます。
景色を「きれいだった」で終わらせず、美しいからこそ過ぎ去るのが惜しいという感情を残すところに、私は惹かれます。好きな季節なのに、穏やかに眺めてはいられない。その二つを、無理に一つの気持ちへ整えてしまわない文章が好きです。
秋を惜しむことも、冬を迎えて落ち着くことも、同じ人のなかにある。風景の説明だけなら省かれてしまいそうな、その揺れにこそ、私はもう少し触れていたくなります。
訪ねる土地から、暮らす土地へ
本書のもとになったのは、雑誌『母の友』に1993年から1995年に連載された「あらすか ものがたり」です。加筆と書き下ろしを加え、旅を続けてきた著者が定住し、結婚や長男の誕生を迎えた時期の出来事を収めています。
その背景を知ると、私には、アラスカが美しい景色のある場所というだけではなくなります。季節が進めば、そこで暮らす人の日々も進んでいく。秋を見送る文章にも、訪ねて通り過ぎる人とは違う時間の流れがあるように思えるからです。
写真は、その場の光や姿を一度に見せてくれます。一方、文章では、風景を見つめるうちに考えが動く、その過程にも触れられる。植物や動物を見ていた視線が、季節を惜しむ気持ちへ移るところを、言葉の順番に沿ってたどれます。
私が知りたくなるのは、どんな場所だったかと同じくらい、そこに暮らした人が何を感じていたのかです。初雪で落ち着く、という一節に戻りながら、その前の秋をもう少し味わっていたくなります。
書誌情報と、本を探す入口
『旅をする木』
著者:星野道夫
出版社・レーベル:文藝春秋・文春文庫
発売日:1999年3月10日
判型・ページ数:文庫判・256ページ
ISBN:9784167515027
文春文庫版の商品ページと、電子書籍版の案内があります。電子版は2022年3月4日配信です。上記のページ数は紙の文庫版の情報です。
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参照した情報
星野道夫事務所の書籍紹介 / 「北国の秋」 / 星野直子さんへのインタビュー
参照範囲:出版社と星野道夫事務所の書籍紹介、公式ギャラリーの公開文、文藝春秋のインタビュー、新潮社『星野道夫著作集 3』の著者紹介。本文の受け止めは、公開文を手がかりにした紫乃の解釈です。公開文・紙版と電子版の書誌は2026年10月26日に再確認しました。本の成り立ちと著者紹介等は2026年10月24日の確認記録を引き継いでいます。公式ギャラリーは文庫の紙面見本ではなく、文庫内の写真の有無・点数は未確認です。
※アイキャッチはAI生成のイメージです。
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