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菜の花の中に、黒い柴犬が一頭。その上の空には、鯉のぼりが並んでいます。岩合光昭の写真文庫『いぬ』の公開見本では、犬の姿から、花や空へと目が移ります。犬だけを切り抜いた写真とは違って、そこにある空気まで眺めたくなる一枚です。
学校で生徒たちを見送る犬もいれば、長く使われたクレートを通して思い出す犬もいる。犬のいる場所や、ともに過ごす年月に目を向けて、写真、小説、エッセイ、漫画の4冊を選びました。かわいらしさだけでなく、老いや別れに触れる本も含みます。
『いぬ』|犬を見ていたら、風景も見えてきた
出版社の立ち読みで見られる4〜5ページは、「第1章 日本犬」の始まりです。菜の花の中の黒い柴犬と、空に並ぶ鯉のぼり。犬の姿と周囲の風景を一緒に眺められる写真です。犬がどう写っているかだけでなく、どんな場所にいるのかにも目が留まります。
この写真文庫を撮ったのは岩合光昭。日本犬の天然記念物6犬種を紹介する章から、世界各地の犬、そして人と暮らす犬へと続く構成です。街角だけでなく、極地や大自然で生きる犬も登場すると、出版社は紹介しています。
犬種を知るために開いても、写真の中の土地や、人との距離が気になってくる。どんな場所にいて、どちらを向いているのか。一枚をゆっくり見たいときに、手元に置きたい本です。
ここで案内するのは、128ページの小さな写真文庫版。大判の写真集とは写真の大きさが違うので、贈り物にするなら、持ち歩ける手軽さを選ぶか、大きく眺める楽しみを選ぶかも考えたいところです。
『犬がいた季節』|犬は学校に残り、生徒たちは卒業する
1988年、夏の終わり。高校に迷い込んだ白い子犬が、コーシローと名付けられます。生徒たちは犬のいる学校で日々を過ごし、やがて卒業していく。次の生徒たちがやってきても、そこにはコーシローがいます。
十八歳にとって、進路や恋の悩みは、そのときの自分から簡単には切り離せないもの。けれど、学校という場所には、毎年違う十八歳がやってきます。一匹の犬が同じ場所にいることで、別々の生徒の迷いや決意が、ひと続きの時間の中に置かれる。その組み合わせに惹かれる小説です。
伊吹有喜が描くのは、犬だけの物語ではなく、犬のそばを通り過ぎていく人たちの青春。出版社と著者の紹介では、昭和から平成、令和へと続く時代が背景になっています。自分が学校を離れたころと重ねて読んでも、今十八歳に近い人の気持ちを考えながら読んでも、目を向ける人物は変わりそうです。
犬との暮らしを読むことと、人の成長を読むこと。その両方を楽しみたい方に。ここでは2024年刊の双葉文庫版を案内します。
『犬心』|前の犬のクレートに、新しい犬が眠る
犬がいなくなっても、その犬が使っていたものは残る。伊藤比呂美の『犬心』の「文庫版のためのあとがき」には、そんなことを考えさせる場面があります。
部屋に置かれたクレートは、タケが子犬のころに使っていたもの。その中で眠っているのは、保護施設から迎えた若いジャーマン・シェパード、クレイマーです。まだ家に慣れず、おびえる新入りのそばで、先住犬のニコは居場所や水飲み場を譲っている。
新しい犬を迎えた、という一言では収まらない暮らしの動きが、そこにはあります。同じ道具を次の犬が使い、犬同士の距離を見ながら、また一緒に過ごす日々が始まる。別れと出会いが、きれいに章を分けて起こるわけではないことが伝わってきます。
本編で描かれるのは、十四年間をともにしたタケとの最後の日々。そこに、日米を行き来して遠距離介護をしていた父の姿が重なります。犬の世話と家族の介護が、一人の書き手の生活の中でつながるエッセイです。
犬の老いだけを切り離さず、世話をする人の時間も読みたいときに。看取りや死に触れる本なので、犬を亡くしたばかりの方への贈り物なら、今こうした本を読みたいかを先に確かめたい一冊でもあります。
『犬を飼う そして…猫を飼う』|別れの後にも、動物との生活が続く
谷口ジローの『犬を飼う』は、自身の経験をもとに、老いた愛犬を看取るまでを描いた漫画です。続く『そして…猫を飼う』では、犬の死後にやってきた猫たちとの生活が描かれます。
題名の「そして」の前後で、一緒に暮らす動物は変わる。それでも、人が動物を迎えて世話をする日常は続いていく。犬との別れを描いた一作と、その後の猫との生活を同じ本で読めるところに、この作品集を選ぶ理由があります。
『犬心』が犬と人の老いを文章でたどる本なら、こちらは漫画として、そばにいる人と動物を読む一冊。犬の話だけを集めた本ではなく、『百年の系譜』や、犬と猫との生活を記したエッセイ「サスケとジロー」も収録されています。
案内する2018年の新装版は、『犬を飼うと12の短編』の一部を抜粋し、エッセイを加えて再編集したもの。旧版を丸ごと収めた本ではありません。A5判・192ページで、カラー原稿は4色印刷で収録されています。旧版をお持ちなら、題名だけでなく収録内容も見比べてください。
老犬の介護と死を扱う点は、読む前に知っておきたいところ。写真を眺める一冊とは、手に取るときの気持ちも違う本です。
書誌と購入先
以下は紙の版です。電子版を選ぶ場合は、商品名・出版社・収録内容をご確認ください。
- 写真文庫『いぬ』
岩合光昭/クレヴィス/文庫判・128ページ/ISBN:9784904845608。
出版社の構成・立ち読み・書誌情報 / Amazonで写真文庫『いぬ』を見る(広告) - 『犬がいた季節』
伊吹有喜/双葉文庫/2024年1月10日発売/ISBN:9784575527179。
著者公式サイトの作品紹介 / 出版社の文庫ページ / 版元提供の書誌情報 / Amazonで『犬がいた季節』双葉文庫版を見る(広告) - 『犬心』
伊藤比呂美/文春文庫/2016年2月10日発売/ISBN:9784167905569。
出版社の作品・書誌情報 / 公式公開の「文庫版のためのあとがき」抜粋 / Amazonで『犬心』文春文庫版を見る(広告) - 『犬を飼う そして…猫を飼う』
谷口ジロー/小学館/2018年6月29日発売・A5判192ページ/ISBN:9784091792563。
出版社の内容・版情報・試し読み / Amazonで『犬を飼う そして…猫を飼う』2018年新装版を見る(広告)
価格や在庫、紙・電子の選択は、購入先の最新表示をご確認ください。
書誌・収録内容は出版社と著者の公式情報を参照しました。『いぬ』は公開見本の4〜5ページ、『犬心』は公式公開の文庫あとがき抜粋を確認しています。『犬がいた季節』『犬を飼う そして…猫を飼う』の紹介は、出版社・著者の内容紹介に基づき、未確認の場面や結末には踏み込んでいません。
画像はAIで制作したイメージです。実際の書影ではありません。
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